親の危篤
仰々しいタイトルをつけてしまったが、ワタクシの親はまだ健在である。
よく遊んでいるカナダ人の友人E、最近元気がないし、あんまり連絡もしてこないしなんだろうと思っていたら、どうやら母親の癌が悪化してしまったと連絡があったとの事。
そんな友人Eは後日休みを取り、カナダへと帰っていった。
2週間くらい行くと言っていたが、最初のうちは姪っ子の写真だの、なつかしの行きつけのレストランだの、ショッピングモールで見かけた面白いものなど送ってきてくれたので、母親の方は落ち着いたのかな?などと思っていた。
それから3週間位して、
「今朝戻ってきたよ」と言われたのだが、
続けて、
「でも、カナダを出発してすぐに亡くなったってさっき連絡があって、、これからまたカナダに戻る」
と連絡が来た。
父親のケアも含めまた2~3週間くらい帰るとの事。
合計で1ヶ月以上抜けてしまったわけだが、そんな話をパートナーに「休みを取らせてくれて良かったよね…」などとしたところ
「そんなの当たり前じゃん!!」
と、突っ込まれてしまったワタクシ。
大抵どこの会社でも身内にそんなことがあれば、普通はお休みくれるよという。
そこでワタクシは、日本で働いていた時のことを思い出すのだった。
アレは、社員旅行直前の金曜の朝、突然母親から、伯父が危篤だと連絡が入り、上司に報告し、帰らせてもらった。
ワタクシと家族はその時東京に住んでおり、伯父が住んでいたのは車で高速飛ばして13時間くらいかかる地方である。
ついたのは土曜日の早朝ごろだった。そこから病院にいき、伯父が亡くなったのは月曜日だった。
お通夜、お葬式をすませ、確か東京に戻ったのは水曜日だったと思う。ワタクシは会社からオフィシャルに与えられている権利である有給休暇を使用したのだが、木曜日に会社に戻ると、お悔やみの一言も言われず、朝礼前に皆の前で部長に突然
「喪主でもないのに休みすぎだ!残されたメンバーの気持ちを考えろ!!」
と怒鳴られた。
ワタクシはその時社会人1年目。
そうか、身内が危篤でも不幸があっても有給休暇はとってはいけないのか。
すぐさま中間管理職の人に別室に連れて行かれ、フォローされたが、とはいえ、結局手っ取り早い話が、
「辛いかもしれないけど、部長のいうこと、理解するように」
ということ。
学生生活とは環境がガラッと変わり、プライベートでも仕事でも人生が凄く辛い時期で、父親のような存在だった伯父の死は、どん底に突き落とすようなものだった上に、会社ではそんな風に言われ…
・・・あぁ、社会人になったら悲しむ権利もなくて、ワタクシが人として大切にしたい部分を色々諦めなきゃいけないんだなぁ・・・
などと漠然と思った気がする。結局ワタクシの有給休暇はその時に使ったのが最初で最後。消化も出来ないまま数か月分くらい消失したような…。
それからもう10年近くが経つが、あんな怒鳴られてもワタクシはあの時お別れが出来てよかったと思っているし、今では、あれが日本の文化なのか、たまたまあの会社がおかしかったのか、もはや分からない。今も日本企業で働く人からしたら「そんなのは常識だ、不幸があったって有給休暇なんてとらないのが当然だ」と思う人もいらっしゃるかもしれない。
しかし、香港で有給を取らせない会社はないし、状況が状況であれば、会社側も休みを認めるところも多い様子であるし、身内のお葬式から帰った直後に「よくも休んだな!」などと言う人はいないと思われる。
仕事も仕事以外も、大切なものに対してはくいの残らないように、バランスよく生きて生きたいなぁと、ただただ切実に思うのであった。